「辞めたいのに、動けない」人へ
退職代行という言葉に、どんな印象を持つでしょうか。
- 無責任
- 逃げ
- 社会人としてどうなのか
- 使ったら終わり
そう感じている人は、少なくないはずです。実際、退職代行はネット上でも賛否がはっきり分かれるテーマです。
一方で、退職を考えながらも、自分を責めて動けなくなっている人も少なくありません。
- 辞めたいと思う自分を責めてしまう
- 「最後までやれない自分が悪い」と感じる
- 本当は限界なのに、判断を先送りしてしまう
この記事は、「退職代行を使うべきかどうか」を決めるための記事ではありません。
使う・使わない以前に、どういう選択肢なのか/何ができて何ができないのか、それを冷静に知るために整理します。
退職代行とは何か(まず事実から)
退職代行とは、本人に代わって「退職の意思」を会社に伝えるサービスです。
一般的に行われるのは、
- 退職の意思表示の代行
- 会社との連絡窓口になる
- 書類のやり取りの補助
ここで重要なのは、退職代行は「退職を成立させる主体」ではないという点です。
日本の法律上、退職の意思を持ち、退職する権利を持っているのは、あくまで当事者です。退職代行が行うのは、その当事者の意思を、会社に対して「伝達すること」に限られます。
つまり、退職代行は、当事者本人の意思を会社に伝えるための手段であり、退職するかしないかを判断する相談窓口でも、決断や責任を肩代わりしてくれる存在でもありません。
なぜ退職代行が必要になる人がいるのか
退職代行を検討する人の多くは、職場との関係そのものが、すでにかなり苦しい状態にあります。
多くの場合、
- 退職を伝えたら詰められる
- 引き止めが激しい
- 感情的な圧をかけられる
- そもそも話を聞いてもらえない
- 心身が限界で、直接やり取りできない
「わがまま」ではなく、対話が成立しない状態。
本来、退職は手続きの話であり、人格や覚悟を試されるものではありません。
それでも現場では、「無責任だ」「みんな我慢している」「ここで辞めるのか」といった感情論が持ち込まれやすい。
その結果、退職の話=心理的な消耗戦になってしまう人が出てきます。
「退職代行は逃げ」という言葉の正体
退職代行を語るとき、必ず出てくるのが「それは逃げだ」という言葉です。では、何から逃げているのでしょうか。
- 違法な拘束
- 過剰な業務量
- ハラスメント
- 対話不能な関係
これらから距離を取ることを、本当に「逃げ」と呼ぶべきでしょうか。逃げという言葉が使われるとき、そこにはよく次の前提が含まれています。
- 耐えられるのが普通
- 直接言えないのは弱さ
- 最後までやるのが美徳
しかし、企業の構造は 「断りにくさ」や「自責」を生みやすい。その中で、自分を守るために距離を取る行為まで精神論で否定されるのは、かなり歪んだ状態です。
退職代行は、「楽に仕事を辞める近道」ではなく、衝突を避けるための緩衝材に近い存在です。
退職代行で「できること」と「できないこと」
退職代行のサービスについて、誤解が多いポイントなので整理していきましょう。
- 本人に代わって「退職の意思」を会社に伝えること
- 出社や直接連絡をせずに退職の意思表示を完了させること
- 会社からの連絡を本人に代わって一次的に受け取ること
あくまで、「辞める」という意思表示を伝達すること。これが退職代行の本来の役割です。
- 退職条件についての交渉(退職日・有給消化・未払い賃金など)
- 会社との法的なやり取りや主張
- トラブル発生時の代理交渉
- 「辞めるべきかどうか」を判断すること
- 退職の責任や結果を肩代わりすること
特に、
法律的な交渉や条件調整は、弁護士でなければ行えない領域とされています。
特に注意が必要なのは、「交渉」ができるかどうかです。一般的な退職代行業者は、法律上の交渉行為はできません。そのため、交渉やトラブル対応まで必要な場合は、弁護士が直接対応する「弁護士運営の退職代行」や、労働問題に強い専門家への相談が必要になります。
そのため、退職代行は判断・責任・交渉までを丸ごと任せられる存在ではありません。この前提を持つことが大切です。
退職代行「モームリ」の件
近年、退職代行サービスを巡っては、弁護士資格を持たない業者による業務が 弁護士法違反(非弁行為)にあたる可能性 があるとして、警察が捜査に乗り出した事例も報じられました。(2025年10月、退職代行サービスの大手 「モームリ」 を運営する会社が、警視庁の強制捜査を受けました。)
このニュースは、「退職代行が危険だ」という話ではなく、できることと、できないことの境界線を理解する必要があるという事実を示しています。
報道によると、この件で問題視されたのは、退職の意思を伝えること自体ではなく、その先に踏み込んだ対応が行われていた可能性でした。
- 退職日や条件に関するやり取り
- 会社側との調整・交渉に近い行為
- 法的判断を含む対応と受け取られかねない業務
こうした部分が、弁護士資格を持たない事業者が行うことはできない領域ではないかという点について、捜査が行われたとされています。
重要なのは、「退職代行=違法」という単純な話ではない、ということです。
- どこまでが「意思の伝達」なのか
- どこからが「交渉」や「法的対応」になるのか
この線を越えた場合、業務の性質そのものが変わってしまうと改めて浮き彫りになった出来事だと言えます。だからこそ、退職代行を選択肢として考えるときには、「使う・使わない」以前に、何をしてもらえるサービスなのか、何は別の専門家が担うべき領域なのかを理解しておくことが重要になります。
このニュースは、退職代行を否定するためのものではなく、正しく使うための前提条件を示した事例として受け取るべきものだと言えるでしょう。
退職代行という選択肢として知っておく意味
退職代行は、誰にでも勧められる手段ではありません。
その一方で、
- 心身が限界
- これ以上話し合えない
- 自責で判断が止まっている
こうした状態の人にとっては、「まだ別の出口がある」と知ること自体が防衛になります。
重要なのは、
- 使うかどうかを今決めなくていい
- 正解・不正解で考えない
- 「逃げたかどうか」で自分を裁かない
選択肢を知ることと、選ぶことは別です。
退職代行は「最後の手段」ではなく「使える手段」
退職代行を使う人が、特別に弱いわけではありません。
むしろ多くの場合、
- 限界まで我慢してきた
- 何度も「自分が悪いのでは」と考えてきた
- それでも状況が変わらず、動けなくなった
そうした過程の末に、これ以上壊れないための方法を探した結果として、退職代行に行き着いています。
退職代行は、「逃げるための装置」ではありません。これ以上傷つかないために、距離を取るための 一つの現実的な手段 です。
もちろん、使うかどうかは人それぞれです。今すぐ必要な人もいれば、知識として持っておくだけで十分な人もいるでしょう。ただ一つ言えるのは、自分を守るための選択肢を知ること自体は、逃げではない ということです。
判断を急ぐ必要はありません。今の自分を責める必要もありません。
まずは、「自分を守るための手段が、ちゃんと存在している」その事実を知っておくだけで十分です。

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